「卒論の続き」

一生青春。 架空的計画(visionary scheme)の目標は世界の法則(The Law of the World)を見つけること。

「顧客の立場で考える」を実践するTool

 前回は、提案のストーリーを組み立てる3つのポイント(必然性、効果・効用、実現可能性)について取り上げた。今回はその中身を考えていく上で有用なToolについて説明したい。

 

Tool 1:「Win−Win」を第一に考える

 お客様が何を必要としているのか、何が解決できたら助かるのか。ビジネスでは、ひたすらこの「お客様のありたい姿」を突き詰め、実現に向けて行動を繰り返すことにつきると考えている。コンサルタントという職種をはじめて12年以上、業務プロセス、IT、組織人材を中心にお客様、自社ともに経営に関わる仕事を担当してきてどんな内容をサービスとして提供しようとも、この「お客様にとってのWin」を第一に考えることから仕事をスタートするように意識してきた。

 このお客様の概念は、目の前の支払いをしてくれる直接のお客様だけでなく、その仕事に関係するすべてのステークホルダーと言っても過言ではない。当たり前だが、コンサルティングサービスであれば大抵の場合、直接のお客様の先にエンドユーザーが存在する。そのエンドユーザーまで視野に入れてプロジェクトを進めなければ有効な施策は考えられない。またエンドユーザーだけでなく、仕入れ先やビジネスパートナー等もサービス全体をデザインする上では欠かせない存在だ。大きな企業になれば社内の関係組織も当然そこに含まれる。

 最初からステークホルダーを多角的に考えていくことは難しそうだが、個人的にはそこがやりがいのあるテーマ、仕事だと考えている。すべての関係者が満足するバランスポイントはそう多くはない。ビジネス上のプランニングは誰かが得をして、誰かが損をするというゼロサムゲームとなりがちだ。最近よくあるブラック企業論に代表される経営者対従業員の構図はその典型的な例だと思う。

 しかしながら、解決方法が必ずある。「ステークホルダー全体がWin−Winとなるポイントを探すこと」こそ、仕事をして自分ならではの付加価値を生み出していくポイントだと考える。それを考え、事業なりプロジェクトなりを推進していくことで自分でなければならない付加価値があるだけでなく、やりがいのある仕事につながっていくのだと確信している。これは職種が何であれ有効な考え方だと思う。メーカーであれば、「前工程は神様、後工程はお客様」というトヨタ式生産方式にも通じる考え方だ。

 

Tool 2:「If I were you?」相手の立場に立って考える

 これは文字通り「もし私があなた(の立場)だったら〜どうするか?」という意味。まあまあ仕事人生で長いこと、営業なり、コンサルティングなり、企画職なり、を担当してきたがこの言葉ほど、仕事に対して深く物事を考えさせてくれるツールは今のところない。多くの宗教でも「他人にしてもらいたいと思うような行為をせよ」または「自分が嫌なことは、ほかのだれにもしてはならない」という「黄金律」をわかりやすく体現する言葉である。数千年の知恵がこの一言に込められている。

 実にいろいろな使い方ができるが、自分が使って最も有用だった方法は、「明日朝一から、あなたが相手の立場に着任したら、まず何から着手するか?」を考えるというアプローチ。人それぞれ置かれている立場、持っているスキルによって着手方法は異なるが、わからないなら調べるとか、わかっているなら何かをするとか具体的なアクションは考えられるはず。本当に相手になりきってみることでその状況を何らか創造できれば、既に問題解決の一歩を踏み出せたようなモノだ。

 上から目線でも、下から目線でもない。依頼者の横から目線を大事にすることで、本当に自分が今、提供すべきソリューションは見えてくるし、そのとき足りない知識は勉強してでも手に入れる。そういうマインドをプロならば持っていたい。そしてそれは「If I were you?(もし私があなた(の立場)だったら〜どうするか?)」という視点で解決できる可能性がある。

 

Tool 3:「率先躬行」(そっせんきゅうこう)

 この言葉は実はごく最近知った言葉だ。ある時期母校のマネジメント講座に通っていたとき、そこで指導いただいていた葛田先生の会社のHPで拝見した。先に述べた「If I were you?」も葛田先生に教えていただいたことだ。率先垂範は、模範を示す一時的なやり方にすぎないが、先生が仰られる「率先躬行(そっせんきゅうこう)」とは辞書を見ると「人の先に立って、自ら物事を実行すること。」とある。

 率先垂範は一過性のもので、模範を示すことに主眼がおかれているが、率先躬行は自らが実践し継続的にリーダーシップをとり続ける違いがある。先生のお言葉を借りれば「モデルを示す率先垂範型であるよりも、三現型(現場、現物、現実直視型)の率先躬行型をロールモデルにすべき」とのこと。

 自分自身、単にマネジメントとして適切な指揮命令をするだけでなく、自らも実行し続けどうやればいいのかを考え、示し続けることが大事だとずっと考え行動してきた。特にコンサルティングのような仕事においては手本を示すだけでなく、メンバーとともにプロジェクトの中で同じテーマについて問題解決について議論し、ともに考え、手も動かし、スキルを体現することでプロジェクトメンバーや組織も成長する。

 

これからの仕事のあり方

 いつも仕事がユニークなプロジェクト型の仕事では特にこれらの考え方は有効だ。当然、プロジェクトであればミッション遂行のために専門分野の異なるメンバーで構成されることも多い。そんな中、最近ネットで話題になっている「全長16mの滝をアウディ R8にプロジェクション・マッピング」という記事にこのことよく表す記述があったので引用させていただく。

 

ところでチームラボの「チーム」とは、彼らのお話によれば作品を制作するときに「個人の主導でもなければ、分業でもない」ということを意味するという。「例えばここに(現代的なプロダクトの一例として)iPhoneがありますけど、このデザイナーは単に外装のカタチだけをデザインすればいいわけじゃないんです。電子部品などのハードウェアや、OSといったソフトウェアのことについても詳しくて、それについても意見を出したり決定したりする。どこまでが"デザイナーの仕事"と、明確ではない」。それが"チーム"によるモノ作りということだそうだ。チームラボのメンバーたちは立場の上では平等で、お互いがどれだけ給料を貰っているか、ということさえ分かり合っているとか。

 

 プロジェクトでの仕事に限らず、これからは一人一人が自分の頭で考えて行動することが大事になってくる。起点はやはり「If I were you?」を考えて行動すること。目上、目下関係なく、その仕事の関係者ごとの考え方があるもの。立場が違えど、お客様しかり、メンバーしかり、相手に対して「うまくやってほしい」という気持ちは共通ではないだろうか。

 

 右肩上がりの時代ならともかく、年功序列やポジションでマネジメントする時代ではないと思う。実力のある人がリーダーシップをとってこそ、企業の成果が出るわけだし、成果が出るからこそ適正な分配も成り立つ。適正な分配があって、企業は健全性が保たれ、更なる成長が期待できる。既得権益や組織的な下位支配がまだまだ多い日本ではあるが原理原則には忠実でありたい。

 

 プロジェクト型の仕事が増えるに伴い、従来の「率先垂範」から「率先躬行(そっせんきゅうこう)」へやり方を変えていく。そうすることで人の気持ちから組織を変えていくことが可能ではないか。気持ち、すなわち意識がかわることで、関係性が変わり、思考が変わり、行動が変わり、結果も変わっていく。

 

 そのような流れから次回は関係の質というテーマについて取り上げたい。